1/11の日曜日、夕暮れ時の六本木。ふらっと「マチュピチュ展」に立ち寄ってきました。
実を言うと、アンデス文明については「あの空中都市のやつでしょ?」くらいの、かなり薄っぺらな知識しか持っていなくて。でも、1時間ほど会場を回って最後に出てきた感想は、「楽しかった」以上に「……これ、設計が完璧すぎて悔しい」という、デザイナーとしての妙な敗北感でした。

詳しくなくても楽しめる展示って、実は一番設計者の愛(と技術)を感じるやつかも。
演出の量ではなく、設計で「没入」を作る

最近は、プロジェクションマッピングを駆使したり、匂いや揺れまで再現したりする“フル没入型”の展示も多いですよね。それに比べると、マチュピチュ展の構成は驚くほどシンプル。
でも、私はこの展示を「静かな没入体験」だと感じました。
特に秀逸だったのが、映像から始まる「オンボーディング(導入)」の導線です。
いきなり展示物(点)を見せるんじゃなく、まずは巨大スクリーンで背景や文脈(線)をしっかりインプットしてくれる。

あ、ここで情報の解像度を揃えてくれるんだ。これは助かる……!
歴史に詳しくない人でも、ここで一度「理解の土台」ができるから、その後の展示を“わかろうとする姿勢”で見られるようになる。昔の博物館で感じた「文字ばかりで、正直どこを見ればいいのかわからない」というあのストレスが一切ない、いわば「迷わせないUI」が徹底されていました。
黄金が放つ、抗えない「引力」

いちばん印象に残ったのは、終盤にずらりと並んだ黄金の装飾品です。
暗い部屋でスポットライトを浴びてきらめく金は、ただそこにあるだけで、自然とこちらの姿勢を正させるような不思議な存在感がありました。
世界中のあらゆる文明で、人はなぜこれほど「金」に特別な価値を置いてきたんだろう。
デザインの仕事をしていると「どう見せるか」にばかり頭を使いがちですが、素材そのものが持つ圧倒的な力は、時代も文化も軽々と越えていくのだと、改めて突きつけられた気がします。

時代も国も違うのに、“金=特別”って感覚は人類共通なんだな。本能に刺さるデザインの究極系かも。
想像力が爆発してる!変幻自在なアイ・アパエック
そんな黄金の輝きに圧倒される一方で、思わず「面白い!」と見入ってしまったのが、神話のヒーロー「アイ・アパエック」を象った土器たちのエリアです。

トウモロコシの姿になったり、唐辛子と合体したり……。
他にもカニやフグの姿を模しているものまであって、そのバリエーションの豊かさに驚かされます。
人々を守るために変身するという物語があるそうですが、それにしても発想が自由すぎる!

ヒーローなのにトウモロコシになっちゃうの?
現代のキャラデザインにも通じる、めちゃくちゃ豊かでユニークな想像力……。
当時の人たちのユーモアセンスというか、身近な自然を神様と結びつける感性がすごく素敵で、一気にアンデス文明に親近感が湧いてしまいました。
空間が「世界を切り替える」スイッチになる

展示は、神話の英雄アイ・アパエックの旅を軸に進んでいくのですが、この空間演出も心憎いものでした。
派手な仕掛けがあるわけではないのに、部屋を移動するたびに壁の色が変わり、アーチをくぐると空気感が変わる。
「今、別の世界に入ったな」という感覚を、視覚と歩行の体験だけで自然に作っているんです。

展示物の横にある液晶パネルも、情報の粒度が適切で読みやすい。
音声ガイドなしでも、自分のペースで理解を深められる設計が随所に光っていました。


「派手な演出」に頼らなくても、「心地よい理解」があれば人は勝手に没入するんだわ。
「わからなさ」という、心地よい余白
もちろん、アイ・アパエックの物語を一度で全て理解できたわけではありません。
「ここはもう少し要約してくれたら助かるな」と感じる部分もありました。

なるほど……!って思ったのに、3歩歩いたら忘れちゃうのは私だけじゃないはず。
でも、その“すべてを理解しきれない余白”があったからこそ、帰宅してから「あれはどういう意味だったんだろう?」と調べてみたり、こうして文章にまとめたりする原動力が生まれたようにも思います。
体験は、日常へ続いていく

ショップでは、一目惚れした「マチュピチュ缶」を購入しました。
今は家のテレビボードの上で、お土産のシーサーたちの横に並んでいます。
16時から17時まで、たった1時間の体験。 でも、会場を出たあとも、ふとした瞬間にあの黄金の輝きを思い出す。 優れた体験設計というものは、会場を出て終わりじゃなくて、こうやって日常の中に静かに続いていくものなんだと感じました。

展示の余韻って、こうやって暮らしの一部になっていくんだな。
まとめ】没入とは「どれだけ気持ちよく理解へ導けるか」
マチュピチュ展には、風も吹かないし床も揺れません。 でも、映像、空間、導線、情報の与え方のすべてが丁寧に設計されていることで、無理なくその世界観へ溶け込むことができました。
没入とは、演出の強さではなく、どれだけストレスなく、気持ちよく理解へ導けるか。 デザインや表現に携わる人間として、大切なことを再確認できた一日でした。
歴史に詳しくない方、展示が苦手な方、空間設計に興味がある方にもおすすめです。
(おまけ)帰宅後に調べた:アイ・アパエックって?
展示で少しモヤっとしていた部分を、自分なりに整理してみました。
- アイ・アパエックって?: アンデス神話のヒーロー。みんなを守る、変幻自在な神様。
- 「旅」の意味: 世界を巡って、悪いものを倒して秩序を取り戻す冒険。
- なぜ「黄金」?: アンデスでは金はお金ではなく「太陽」や「神の力」の象徴だった。

なるほど。そう聞くと、あの展示の流れがパズルのように繋がってスッキリ!
