Web制作の仕事を始めて、20年以上が経ちました。
WebサイトやLP、バナーなど、仕事としてデザインしてきたものはそれなりにあります。
使うツールも、Photoshop中心だった時代からXDへ、そして今はFigmaへと変わってきました。現在はデザインセンターでシニアデザイナーとして、ほかの人が作ったものにフィードバックすることも日常的にあります。
だから、「デザインができない」わけではないんです。
それでも昔から、自分でグラフィックを自在に作ることには、どこか引け目がありました。
凝ったものでなければバナーも作れるし、BtoBのWebサイトなら普通にデザインできます。でも、「こんなものを作りたい」と頭に浮かんだとき、それを自分の手でさらっと形にできるかと言われると、自信がない。
その感覚だけは、20年以上働いてきた今も残っています。
そんな私が最近、仕事でIllustratorを使う機会が増えました。
バナーを作ったり、配布されているイラスト素材をカスタマイズしたり、ステッカーなどWeb以外のものを作ったり。
苦手だ!と言いつつも、これが思いのほか楽しく、今さらながら「私、やっぱり作ることが好きだったんだな」と思っています。
Web制作を始めた頃は、毎日サイトをデザインしていた
Webの勉強を始めたのは2004年。
昼間働きながら、教育訓練給付制度を使って夜間のWebスクールへ通いました。会社の経営悪化で退職後、翌2005年には3ヶ月間のDTP職業訓練も受講。
その年、なかなか仕事が決まらない中、最低賃金クラスのアルバイトとしてWeb制作会社に入り、Webデザイナーとして働き始めました。
担当していたのは、零細企業の新規ホームページのデザイン。
1日1件、毎日新しいホームページの「ガワ」を作っていました。トップページのメインビジュアルを含め、サイト全体の見た目を作る仕事です。当時はコーディング担当が別にいたため、私が担当していたのはデザインのみでした。
今でいうUIデザインとはかなり違いますが、最初の2年間で「毎日デザインする」という経験はかなり積みました。
ただ、デザインの考え方や見せ方を本格的に教わることになるのは、その次に転職した事業会社でした。
事業会社で、デザインの「見る目」を教わった
2007年に事業会社へ転職し、「ユーザーインターフェース開発グループ」に所属。
会社から東京へ出張してUI関連のセミナーを受けたり、実際にユーザーが操作している様子を観察する調査に触れたり。管理画面などの画面設計やデザイン、アイコン制作などにも携わりました。
この頃から、単純に見た目を整えるだけでなく、「どうすれば迷わず使えるか」「どの情報をどう見せれば伝わるか」を考える仕事が増えていきます。
そして、この会社でデザインの基本もかなり細かく教わりました。
当時の上司は広告代理店出身。余白や整列、情報の強弱などの基本はもちろん、特にジャンプ率など、「どう見せれば人の目に入るか」という部分にはかなり細かく指導されました。
今、ほかの人が作ったデザインを見てフィードバックするときにも、この頃に身についた感覚はかなり残っています。
今でも、ほかの人のデザインを見たときに「ここはもう少し差をつけたほうがいい」「情報の優先順位が見えにくい」と感じるのは、この頃に身についた感覚が大きいと思います。
現在、シニアデザイナーとして制作物にフィードバックするときにも、この経験はかなり役立っています。
それでも「制作の勉強はしなくてもいい」と言われた
そんな上司から、一方で言われたのが、
「これからデザイン制作の勉強をしても仕方ない」
という言葉でした。
デザインそのものを学ばなくていい、という意味ではなかったのだと思います。
事業会社で仕事をしていくなら、自分自身が制作ツールの技術を磨くことより、デザインの良し悪しを判断し、デザイナーへ適切な指示を出し、企画やディレクションができる側へ進んだほうがいい。
たぶん、そういう意味だったのでしょう。
そのときは、まだデザイン制作を初めて丸2年、やっと作れるようになってきたところで制作を取り上げられるのか?と悲しくなりましたが…
実際、その後は自分で手を動かして制作するより、アートディレクションをする案件が増えていきました。
今の自分が人のデザインを見たり、ディレクションしたりできていることを考えれば、当時教えてもらったことは間違いなく役立っています。
だから、「あの上司が間違っていた」と言いたいわけではありません。
ただ、「制作スキルそのものを伸ばさなくてもいい」という部分だけが、自分の中に思っていた以上に長く残りました。
何かを自分で作りたいと思うたびに、
「それ、作れる人に頼んだほうがいいんじゃない?」
「今さら制作スキルを勉強して、何になるの?」
という声が、今でもどこかから出てきます。
バナーが作れなくて、「私ってデザインできないのかも」と思った
その後、部署異動で営業部制作グループに移り、バナーを作ることになりました。
それまでサイト全体のデザインは何年もしてきたのに、バナーを本格的に作った経験はほとんどありません。
限られたスペースの中で情報を整理して、目を引かせて、クリックしてもらう。やってみると、思っていた以上に難しい。すごく時間がかかるうえ、思ったようなものになりませんでした。
「Webサイトは作ってきたのに、私ってデザインできないのかも」
そんなふうに一気に自信をなくし、一度デザインの仕事から離れました。
結婚を機にWeb制作から離れ、着物屋で働いた時期もあります。でも、それだけで食べていくのは難しく、結局これまで身につけてきたWeb制作の仕事へ戻ることにしました。
やっぱりUIをやりたい、と戻ったけれど
Webに戻るなら、やっぱりUIに関わる仕事がしたい。
そう思ったのは、その頃になって突然UIが気になったからではありません。
iPhone登場の2007年、事業会社ですでにユーザーインターフェース開発に関わり、画面設計やユーザー視点で考える仕事に触れていたからこそ、もう一度そちらをやりたいと思ったんです。
ところが、「UIに関われそう」と思って派遣で入った会社では、デザイン業務はなく、ほぼマークアップ専任。私はプログラミングが得意ではなく、エンジニアとのやり取りでも自信をなくしました。
「やっぱり、ちゃんとUIデザインの仕事をやってみたい」
そう思って転職した先では、今度はIllustratorのスキルについて指摘されました。
当時までのWeb制作はPhotoshopを使うことが多く、私もいわゆる「フォトショッパー」寄りでした。Illustratorも、アイコンや線画、Webで使うパーツを作るときには使っていました。まったく使えないわけではありません。
でも、Illustratorを使ってグラフィック全体を組み立てたり、表現そのものを作ったりする経験は少ない。そこが、自分の中でずっと弱い部分として残ることになりました。
その後、UI制作のメインツールはXDへ移り、今ではFigmaを使っています。
仕事に必要なツールは、その都度それなりに覚えてきました。
それでもIllustratorだけは、転職するたびに「もう少しちゃんとできたほうがいいよな」と本を1冊くらい勉強して、必要な機能だけ使う。その繰り返し。
ツールの変化についていけなかったというより、Illustratorを使って自分でグラフィックを作ることだけが、ずっと中途半端なまま残っていたというほうが近い気がします。
UI改善もしてきた。でも「専門です」とは言い切れない
その後はECサイトの改善や、スタートアップ企業のサイト制作などにも携わりました。
ヒートマップを見たり、A/Bテストをしたり、画面を改善して効果を見る。そうした仕事は経験してきました。
ただ、ペルソナ設計やアクセス解析などは、それを得意とする人が担当してくれる環境でした。UXリサーチやデータ分析を専門として、深く積み上げてきたわけではありません。
だから、「UIやUXを20年専門でやってきました」と言えるかというと、それも少し違う。
Webデザイン、UI、ディレクション、マークアップ、EC改善。
振り返ると、ずっとWeb制作の周辺を行ったり来たりしながら働いてきた気がします。
制作歴15年を過ぎて、今度はプログラミングを勉強した

Web制作を始めて15年ほど経った頃には、
「デザインが大してできないなら、今後のためにプログラミングを勉強して、せめてフロントエンドくらいできたほうがいいのでは」
と考えるようになりました。
その頃にはUXについても改めて学び直し、半年ほどスクールで勉強しました。
その後、もともとWordPressのカスタマイズはしていたこともあり、PHPの勉強も兼ねてLaravelまで学べるエンジニアスクールへ。安くない受講料を払い、こちらも半年かけて勉強しました。
卒業制作では、「ガールズちゃんねる」のような掲示板で会員機能を持たせたものを制作。ログインして、ユーザーが投稿して、コメントできるところまで作りました。
半年間勉強して、卒業制作も完成させました。
それでも、プログラミングは全然楽しくありませんでした。
もちろん、やったことが無駄だったとは思いません。コードを読んだり、エンジニアと話したりするときには今でも役立っています。
ただ、「もっと知りたい」「もっと作ってみたい」という気持ちは、あまり湧いてきませんでした。
そして今、Illustratorを触るのが楽しい
2023年から携わっている今の仕事では、サイト設計やLPデザインだけでなく、バナーやステッカーなどの制作、コーディング、ディレクション、業務フロー改善まで幅広く担当しています。
UIやサイト設計ではFigma、グラフィック制作ではIllustrator、案件によってはCanvaも使います。Photoshopも長年使ってきましたが、今では仕事よりプライベートで触ることのほうが多くなりました。
デザインセンターに所属し、現在はシニアデザイナーとして、ほかのデザイナーの制作物にフィードバックすることも日常的にあります。
デザインの基本が分からないわけではないし、WebサイトやLPを作れないわけでもない。
それでも、自分自身が手を動かしてグラフィックを作ることについては、ずっとどこかに苦手意識が残っていました。
ところが今の仕事では、Illustratorを使う機会がぐっと増えています。
バナーを作ったり、既存のイラスト素材を調整したり、ステッカーや年賀状などWeb以外のものを作ったり。
使っているうちに、
「これ、どうやって作るんだろう」
「こんな機能もあるんだ」
「もう少しきれいに作れるようになりたい」
と思うことが増えました。
最近はUdemyでIllustratorのアピアランス機能を勉強しています。
仕事で誰かに「勉強してください」と言われたわけでもなければ、資格が必要なわけでもありません。ただ、知らなかった機能を知るのが面白いし、作れるものが増えるのが楽しい。
転職するたびに「足りないから覚えなきゃ」とIllustratorの本を開いていた頃とは、少し違う気がしています。
でも、「今さらIllustrator?」という自分もいる
一方で、頭の中にはずっと別の声があります。
今さらIllustratorを勉強してどうするの?
もうAIで画像はいくらでも作れる。
今はAIで作った画像をIllustratorでパス化したり、人間が仕上げたりする仕事もありますが、数年後にはAIがもっときれいなデータを、編集可能な状態で生成するようになるかもしれません。
年齢やこれまでの経験を考えれば、手を動かす制作より、企画やディレクションなど上のレイヤーを学んだほうがいいのでは。
Claudeをはじめ、AIを効率よく使う方法を勉強したほうが、仕事には役立つのでは。
そう思う自分もいます。たぶん、どれも間違ってはいません。
そしてそんなことを考えるたびに、15年以上前に言われた、
「デザイン制作を勉強しても仕方ない」
という言葉がよぎります。
今でも、「それ、自分で作るより作れる人に頼んだほうがいいんじゃない?」と夫からは言われることがあります。
確かに、仕事として考えればそのほうが効率のいい場面はいくらでもあります。
でもそう言われると、「作るのが楽しい」という気持ちまで、自分で否定したくなってしまうんです。
「できないから勉強する」だけではなくなった
振り返ると、私はずっと「足りないもの」を埋めるために勉強してきた気がします。
Illustratorが足りない。
UIやUXの経験が足りない。
プログラミングが足りない。
分析の経験も足りない。
そのたびに、「次はこれを身につけたほうがいい」と考えてきました。もちろん、それで身についたこともたくさんあります。
今、Webサイトを設計して、デザインして、必要ならコードも触り、制作物のフィードバックをして、ディレクションまでできるのは、その積み重ねがあるからです。
そして、昔の上司から教わった「デザインを見る力」も、今の自分の大きな土台になっています。
それでも自分では、できることより「できないこと」のほうを見てきました。Illustratorでグラフィックを自在に作ることも、ずっとそのひとつでした。
でも最近は少し違います。
「できないからやらなきゃ」ではなく、
「もっとできるようになったら楽しそう」
と思って勉強しています。
この違いは、自分の中では意外と大きいのかもしれません。
「役に立つから」だけで勉強しなくてもいいのかもしれない
私はたぶん、何かを始めるたびに、それをやる理由を正当化したくなるのだと思います。
ブログなら、文章を書くことで思考が整理される。
文章力も上がるし、少ないながらアフィリエイト収益にもなる。
サイトを運営する経験が、別のビジネスにつながる可能性もある。
そうやって「続ける意味」を説明できます。でも、今Illustratorを勉強したい一番の理由は、もっと単純です。
ちょっと素人ではないグラフィックを、自分でさらっと、引け目を感じずに作れるようになりたい。
Webデザインの仕事を20年以上してきた今でも、そこだけはずっと自分の中に残っていました。そして何より、作ることが楽しい。本当に、それだけです。
もちろん、Illustratorを極めれば将来安泰だなんて思っていません。
AIがこれからどう進化するのかも分かりませんし、今からグラフィックデザイナーとして大成しようと思っているわけでもありません。
それでも、自分の頭の中にあるものを、自分の手で形にできるようになりたい。
仕事でも個人の制作でも、「ここをもう少しこうしたい」と思ったとき、自分でさらっと直せるくらいにはなりたいんです。
20年以上経って、ようやく「楽しい」を理由にしてみる
Web制作を始めて20年以上。
Webデザインから始まり、UI、ディレクション、マーケティング、マークアップ、EC改善、UX、プログラミングまで、その時々で必要だと思ったものを経験してきました。
制作ツールも変わり、仕事内容もずいぶん変わりました。
今はシニアデザイナーとして、ほかの人のデザインを見る側にもいます。
昔、「制作より、その先へ」と言われた方向にも、ちゃんと進んできたのだと思います。
それでもなお、
「自分はもっと作れるようになりたい」
という気持ちが残っています。
20年以上やってきたからこそ、今さらこんなことを勉強してどうするの、と考える日もあります。
その時間があるなら、AIやもっと別のことを学んだほうがいいのでは、と焦ることもあります。
たぶん、これからも何度も揺れるのでしょう。
でも、ずっと「足りないから勉強しなきゃ」と思ってきた自分が、今はIllustratorを触りながら、「ああ、作るのって楽しいな」と思っています。
それなら少しくらい、
役に立つかどうかだけではなく、楽しいからもう少し上手くなりたい。
そんな理由で勉強してもいいんじゃないか。
20年以上経って、ようやくそう思い始めています。

